ひとこまのはて


《 ごあいさつ 》

嘘のお話だとわかっていても、それに泣いたり笑ったりできる不思議な⼒が私たちには備わっています。喜怒哀楽、否応なく動く感情に抗えない。架空の存在が⼈⽣の救いとなることもあるでしょう。そんなふうに、想像的なものが私たちの⼼や体へ働きかけて何かしらの反応を引き起こすという意味で、虚/実の境界はとても曖昧なのかもしれません。と同時に、実在しない絵空事があたかも本当であるかのように立ち現れてくるのは、つぶさに連ねられた図像や⾔葉があるからこそ。イメージがひとこまひとこま積み重ねられたその果てに命が吹き込まれ、キャラクターや物語が動き始める。その⽣命感に満ちた「嘘」に私たちはだまされてしまうというわけです。

 ⽂を組み合わせる、紙を枠線で分割し絵を描く、図像を連続的に提⽰する、などなど。本展は、連鎖する「コマ」から生まれる物語や時間をめぐる様々な表現をお伝えするものです。思考実験を尽くして綴られる無数のあんな夢やこんな地獄、秘められた誰かどこかの日常や心の光景。物語というそれぞれの小さな宇宙では、ありとあらゆることが起こります。動く幻影をひとこま進むたびごとに出会う「?」と「!」で自分が更新されていく。その意味で物語とは、可能な「私たち」について記された百科事典のようなものかもしれません。鑑賞者はそこに没⼊することで、⾃分ではない誰かへと想像的に成り代わり、他なる現実をわずかに⽣きる。その経験は古今東⻄、他人を知り自分をみつめるきっかけになるとともに、同類だけどばらばらな私たちをつなげる共感を育むために欠かせない営みなのではないでしょうか。

 歴史に「もし」はなく、⼈⽣は⼀度きり。この世は思い通りにいかないことばかりですが、そんな現実にいながらも同時に超え出て、今より⾃由で在るために、私たちは物語という夢か現をつくりあげ、そこで遊ぶことをやめないのかもしれません。

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企画展|ひとこまのはて
出展者|平野智之、川戸由紀、黒田勝利、石原麻紀、田中美子、創造広場
会期|2025年4月26日(土) ~ 10月5日(日)
時間|10:00~17:00
休館日|月・火曜(ただし祝祭日は開館) ※ 入場無料
主催|社会福祉法人 創樹会 鞆の津ミュージアム
協力|クラフト工房La Mano、社会福祉法人かれん、社会福祉法人ノーマライゼーション協会 西淡路希望の家、ぬか つくるとこ、
    社会福祉法人 瀬戸内福祉事業会 根っこ せとうち、田中庸介/原田史子(ギャラリーカドッコ)、松繁逸夫、西成情報アーカイブ、
    NPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム)、上田假奈代、とっておきの芸術祭 in ふくやま実行委員会
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【関連イベント】

◇《 ヒラトモ作品のひみつ 》
内容|本展出品者・平野智之さんをゲストにお迎えし、平野さんが制作した「美保さんシリーズ」の自作解説 ギャラリーツアーを開催いたします。
日時|2025年6月15日(日)@15:00-16:00ごろ
会場|鞆の津ミュージアム館内 展示室
料金|無料(開始時間になりましたら、会場にそれぞれお集まりください)

◇《 弓指寛治トーク 》
内容|自死・戦争・事故・災害など様々なかたちで亡くなった人たちの生の物語を絵に描くアーティストの弓指寛治さんをゲストにお迎えし、
死や慰霊をテーマとする自作についてご解説いただきながら、近年、強い関心を寄せておられる〈福祉〉についてお話いただきます。
日時|2025年9月13日(土)@16:00-18:00
会場|鞆の津ミュージアム館内 休憩室
料金|500円
要予約:info@abtm宛てにメールか電話094-970-5380まで

◇《 須川亜紀子トーク 》 会期中の開催決定。現在、日程調整中。※日時の詳細が決まりしだい、当館のwebサイトやSNSにてお伝え致します。
内容|「魔法少女」「2.5次元」「ファンダム」などのキーワードを切り口に考察を展開するポピュラーカルチャー研究者の須川亜紀子さんをゲストにお迎えし、現代社会に生きる私たちの複雑な心を映し出すメディアとしてのマンガ/アニメ/舞台/ゲームをめぐって様々にお話いただきます。
 

< 広報物中面-出展者情報 > ※クリックすると拡大してご覧いただけます。